ITデューデリジェンス(ITDD)とは?M&AにおけるIT資産・技術負債評価の全体像

ITデューデリジェンス(ITDD)とは、M&Aにおいて対象企業のIT資産、システム構造、セキュリティ、保守体制、技術負債を多角的に評価し、事業継続性と投資妥当性を検証する調査プロセスです。検索ユーザーが抱く「ITDDでは何を調べるのか」「どこまで詳細に分析するのか」という疑問に対し、実務基準に沿って体系的に整理します。
ITデューデリジェンス(ITDD)の定義
ITDDとは、企業が保有するITシステムの信頼性・拡張性・セキュリティ強度を評価し、将来の事業成長に必要なIT投資額や潜在リスクを特定する調査です。財務DDや法務DDと異なり、「ITが事業モデルに与える影響」を可視化することが主目的です。
- システム構成・アーキテクチャの分析
- ITインフラ(サーバ、ネットワーク)の診断
- セキュリティ・内部統制の確認
- 運用体制・保守コストの分析
- 技術負債(Legacy)と将来投資額の算定
デューデリジェンス全体の流れと役割は
デューデリジェンスの基礎に関して解説で詳しく解説しています。
ITDDが重要とされる理由
1. 事業継続に不可欠なIT資産の信頼性を判断するため
EC、SaaS、金融、製造など、現在の多くの企業はITを中核に事業を展開しています。システム障害や情報漏洩が起きると、売上・信用・顧客が一度に失われるため、M&AにおいてITDDは不可欠です。
IT障害が財務へ及ぼす代表的な影響例
| 項目 | 影響 |
|---|---|
| 売上 | EC停止・受注処理遅延により短期的に毀損 |
| 利益 | 復旧対応・外部委託・補償金により追加費用が発生 |
| 企業価値 | DCFの将来CFが減少し、EV/EBITDA倍率が低下 |
2. システムの老朽化(技術負債)が評価を大きく下げるため
老朽化(Legacy)システムは保守不能やセキュリティの脆弱性を抱えており、買収後の追加投資が必要になります。特にCOBOL、VB6、オンプレミス独自基盤などは要注意です。
企業価値評価の前提となるDCF・EV/EBITDAの基礎知識は
企業価値評価の基礎に関して解説で詳しく解説しています。
3. PMI(統合作業)で最もトラブルが起きる領域であるため
組織統合よりも前に、IT統合(システム連携)は大きな障害となります。データ移行、基幹システムの統合、セキュリティ基準統一など、ITDDで問題を把握しておかなければ統合コストが急増します。
ITDDの主な調査項目
ITデューデリジェンスは以下5領域で構成されます。
- ① システムアーキテクチャ分析
- ② ITインフラ分析
- ③ セキュリティ・内部統制分析
- ④ 運用・保守体制分析
- ⑤ IT投資額・技術負債の算定
① システムアーキテクチャ分析
システムの構造を分解し、モジュール化、拡張性、依存関係を確認します。特にクラウド移行の容易性は、投資額に大きな影響を与えます。
| 調査項目 | 内容 |
|---|---|
| 開発言語 | 保守性・エンジニア確保の難易度 |
| アーキテクチャ | モノリシック/マイクロサービスのどちらか |
| 外部API | 外部サービスへの依存度と障害リスク |
② ITインフラ分析
サーバ、ネットワーク、クラウドサービスの信頼性を評価します。特に「オフラインバックアップの有無」は重大項目です。
- クラウド基盤のSLA
- ネットワーク冗長化の仕組み
- 障害時のフェイルオーバー手順
- バックアップポリシーの実行状況
③ セキュリティ・内部統制分析
情報漏洩、マルウェア、内部不正に対し適切な統制が整備されているか確認します。特にSaaS企業では顧客データ保護が重要です。
| リスク領域 | 確認ポイント |
|---|---|
| アクセス権管理 | 権限の最小化、ID統合 |
| 脆弱性管理 | 定期診断の有無、CVE対応 |
| 内部統制 | ログ管理、変更管理プロセス |
④ 運用・保守体制分析
IT部門の人員構成・スキルセット・外部委託比率を確認し、事業継続能力を評価します。
- 運用担当者の人数・スキル
- 開発と運用の分業状況(DevOps)
- 外部ベンダーとの契約条件
- 障害対応手順書の整備状況
⑤ IT投資額・技術負債の算定
ITDDの核心は「どれだけ追加IT投資が必要か」を可視化することです。
追加投資額の算定方法(例)
| 項目 | 試算方法 |
|---|---|
| クラウド移行 | 現在の処理量 × 単価 × 将来成長率 |
| リプレイス | 現行システム規模 × 工数単価 × モダナイズ係数 |
| 運用改善 | 外注費 × 削減期待率 |
投資額はDCF法の「CAPEX」「運転資本」に反映され、企業価値へ直結します。
ITDDのプロセス
1. 事前資料の収集
- システム構成図
- ソースコードの一部サンプル
- 運用マニュアル
- 保守契約書(SLA)
- 脆弱性診断レポート
2. 経営陣・IT責任者インタビュー
技術負債、事業計画との整合性、将来投資計画をヒアリングします。
3. 現場調査(オンサイトレビュー)
実際の運用状況、ログ管理、障害対応履歴を確認します。
4. ITリスクのスコアリング
客観的に評価するため、重要度×影響度のマトリクスで評価します。
スコアリング例
| リスク項目 | 重要度 | 影響度 | 総合点 |
|---|---|---|---|
| セキュリティ | 5 | 5 | 25(重大) |
| 技術負債 | 4 | 4 | 16(高) |
| 運用体制 | 3 | 3 | 9(中) |
ITDDを怠った場合のリスク
- 突発的な障害により売上が大幅減少
- 技術負債の放置による莫大な追加投資
- セキュリティ事故による信用毀損
- 統合困難によるPMIの遅延
ITDDのチェックリスト
- 主要システムのサポート期限は残っているか
- データバックアップは実運用されているか
- IT部門のスキルセットは十分か
- クラウド移行の可否は明確か
- 追加IT投資額はDCFに反映されているか
よくある質問
ITDDでは、システム構造、ITインフラ、セキュリティ、運用・保守体制、技術負債を多角的に分析し、事業継続性や追加投資リスクを評価します。
突発的なシステム障害による売上減少、技術負債の増大による追加投資、セキュリティ事故、PMIの遅延など、企業価値に重大な影響が生じます。
クラウド移行、システムリプレイス、運用改善などを対象に、処理量・工数・単価・削減期待率を基に試算し、DCF法のCAPEXや運転資本に反映させます。
まとめ
ITデューデリジェンス(ITDD)は、IT資産の信頼性、セキュリティ、保守体制、技術負債を多角的に分析し、買収後の事業継続性を判断する重要プロセスです。財務DD・法務DDと並び、ITDDは企業価値を左右するため、専門的な調査と精緻な分析が不可欠です。
