M&A デューデリジェンス(DD)とは|目的・種類・チェック項目を体系的に整理

M&Aデューデリジェンスとは、買収対象企業の実態を多角的に調査し、価格・リスク・シナジーを適正に評価するための専門調査です。
検索ユーザーの多くは「何を調べるのか」「どのDDが必要か」「流れはどうなるか」を求めています。本記事では財務・税務・法務・ビジネス・人事・ITなど主要DDの目的、要点、調査プロセスを専門的に整理します。
1. M&Aデューデリジェンス(DD)とは
デューデリジェンス(Due Diligence:DD)とは、買収対象企業の事業・財務・契約・組織などを専門家が詳細に調査し、買収価格・交渉条件・リスクを評価するプロセスです。中小企業庁もM&Aにおけるリスク把握の重要性を強調しており、DDは価格妥当性を支える主要工程とされています。
1-1. DDが必要となる理由
- 買収対象の財務実態を正確に把握する
- 簿外債務・税務リスク・未払費用などの潜在リスクを発見する
- 法務・契約の問題(訴訟、許認可、取引条件)を確かめる
- ビジネスモデルの持続性、顧客集中リスクを確認する
- 従業員の処遇、人件費構造、キーマン依存度を把握する
- 統合後(PMI)で発生するコスト・障害を予測する
DDは企業価値評価(バリュエーション)と密接に関連しており、
EV/EBITDA倍率を用いた評価やDCF法によるキャッシュフロー試算に採用する前提数値の検証手段として機能します。
企業価値算定については 企業価値とはに関して解説で詳しく解説しています。
2. 各領域のデューデリジェンスと調査の流れ
ここでは主要DD(財務・税務・法務・ビジネス・人事・IT)について、目的・要点・流れを体系的に整理します。各項目の最後には該当領域をさらに深掘りした記事へ内部リンクを設置しています。
2-1. 財務デューデリジェンス(FDD)
●財務DDの目的
財務DDは、過去の財務数値が正常で継続可能であるかを検証し、実質的な利益水準や運転資本の水準を見極める調査です。
●財務DDの主要論点
| 論点 | 内容 |
|---|---|
| 正常収益力 | 役員報酬調整・オーナー費用・季節要因を補正 |
| 運転資本 | 売掛金・棚卸・買掛金の水準と増減要因 |
| 実質負債 | 簿外債務、退職給付、未払費用の存在 |
| キャッシュフロードライバー | 営業CF・投資CF・財務CFの構造 |
●財務DDの流れ
- 財務データ(3〜5年)取得
- PL・BSの異常値分析
- 実態利益(Adjusted EBITDA)算定
- 運転資本の基準値計算
- キャッシュフローの持続性分析
- 買収価格への反映
2-2. 税務デューデリジェンス(税務DD)
●税務DDの目的
税務DDは、過年度の申告内容の妥当性、税務リスク、未払税金などの潜在負債の存在を確認するために行われます。
●税務DDで特に問題となる項目
- 役員報酬・交際費の税務処理
- 棚卸資産評価、固定資産の耐用年数
- 消費税の区分誤り
- 税効果会計の処理誤り
- 繰越欠損金の利用可否
●税務DDの流れ
- 過去3〜7年の申告書・税務調査記録の確認
- 税務調整項目の把握
- 税務上のリスクの定量化
- 買収後に発生する追加納税リスクの試算
2-3. 法務デューデリジェンス(LDD)
●法務DDの目的
法務DDは、対象企業が抱える契約リスク、許認可、訴訟、知的財産の権利関係などを調査し、取引後の法務トラブルを未然に防ぐための分析です。
●法務DDで特に重視される領域
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 重要契約 | 売買契約、仕入契約、販売代理契約の条件確認 |
| 知財 | 特許・商標の権利者・利用範囲の確認 |
| 許認可 | 業種特有の許認可の欠落や更新期限 |
| 訴訟・紛争 | 係争の有無、賠償額の可能性 |
●法務DDの流れ
- 重要契約書・許認可情報の収集
- 取引条件・解除条項の確認
- 知財権の範囲・存続期間の確認
- 訴訟・紛争のリスク評価
2-4. ビジネスデューデリジェンス(BDD)
●ビジネスDDの目的
事業構造・競争環境・顧客構成・サプライチェーンなど、企業のビジネスモデルと収益構造の持続性を評価する調査です。
●ビジネスDDの主な論点
- 市場規模・成長率
- 業界競争状況
- 顧客集中度
- サプライヤー依存度
- キーマン依存度
- 設備投資の必要性
●ビジネスDDの流れ
- 市場データの収集(日本経済新聞の業界情報等)
- 顧客別売上分析
- 競合比較
- 成長要因・リスク要因の評価
- 事業計画の実現可能性分析
2-5. 人事デューデリジェンス(人事DD)
●人事DDの目的
従業員構成・賃金体系・就業規則・未払残業などの労務リスクを把握し、PMI後のコストと統合負担を予測します。
●人事DDの主な論点
- キーマン(技術者・営業)の把握
- 未払残業・労務リスク
- 離職率と人材流出リスク
- 退職給付債務の確認
- 評価制度・賃金体系
●人事DDの流れ
- 従業員データの確認
- 給与体系・残業実態の分析
- 労務関連規程の確認
- 退職給付債務の計算
2-6. ITデューデリジェンス(ITDD)
●IT DDの目的
システム構造・セキュリティ・老朽化・データ管理体制を評価し、買収後に発生するITコストや更新必要性を把握します。
●IT DDの主な論点
- 基幹システムの老朽化
- サイバーセキュリティ体制
- データ管理方法
- クラウド移行状況
- IT統合(PMI)に必要なコスト
●IT DDの流れ
- システム構成図の入手
- 委託契約・ライセンス確認
- セキュリティ診断
- システム更新コストの算定
3. DD結果はどのように買収価格へ反映されるか
DDで発見されたリスクは、以下のいずれかの方法で買収価格へ反映されます。
- 企業価値評価(DCF法・EV/EBITDA倍率)の前提修正
- 買収価格の減額交渉
- アーンアウト条項の追加
- 表明保証・補償(Indemnity)の強化
4. DD実施時のよくある失敗と注意点
- 資料の不足により正常収益力が見誤られる
- オーナー依存型事業の人的リスクを過小評価
- IT更新コストを計上せず、PMIでコスト超過
- 未払残業など労務トラブルを見落とす
- 重要契約の解約条項を見逃す
よくある質問
財務・税務・法務・ビジネス・人事・ITなど複数領域を専門家が調査し、対象企業のリスク、収益構造、資産・負債の正確性、契約関係、労務リスク、IT更新コストなどを把握します。
DCF法やEV/EBITDA倍率などの valuation の前提修正、買収価格の減額交渉、アーンアウト条項の追加、表明保証・補償の強化などによって価格や契約条件に影響します。
簿外債務、未払残業などの労務リスク、許認可や契約の解約条項、ITシステム更新コスト、オーナー依存度、顧客集中リスクなどは見落としやすく、買収後のトラブルにつながりやすい点として注意が必要です。
まとめ
M&Aデューデリジェンス(DD)は、財務・税務・法務・ビジネス・人事・ITなど多領域を精査し、リスクと企業価値の妥当性を確認する重要プロセスです。各DDの目的と流れを理解すると、買収価格の妥当性評価、交渉条件、PMI計画まで一貫した判断が可能になります。
