M&Aの流れを専門的に整理|全工程の目的・実務・注意点を体系的に解説

本記事では、M&Aを検討する経営者が最も知りたい「M&Aの流れ」を、実務工程ごとに目的・必要資料・評価手法・注意点を体系的に整理します。各ステップに必要な作業や判断基準を理解することで、交渉リスクを減らし、適正な企業価値で取引を進めるための判断軸が得られます。
M&Aの流れは7ステップに整理される
M&Aプロセスは一般に以下の7ステップに分かれます。各工程は独立しているわけではなく、財務情報・事業情報・労務情報の精度が全体の進行速度と成功確度に直結します。
| ステップ | 概要 |
|---|---|
| 1. 事前準備 | 決算整理、正常収益の把握、事業計画整理 |
| 2. 相手先探索 | 候補企業リストアップ、ノンネーム資料作成 |
| 3. 交渉・基本合意 | 意向表明書(LOI)、希望条件の提示 |
| 4. デューデリジェンス | 財務・税務・労務・法務の詳細調査 |
| 5. 最終契約 | 株式譲渡契約書(SPA)締結 |
| 6. クロージング | 対価支払・株式引渡・役員変更など |
| 7. PMI | 統合作業、管理体制移行 |
1. 事前準備(資料整理・企業価値の把握)
M&Aの成否を左右する最重要工程です。買い手は将来キャッシュフローを重視するため、財務情報の「正常化」が不可欠です。
必要作業
- 過去3〜5期の財務諸表整理
- 役員報酬・社長関連費・一時費用の調整(正常化)
- 主要顧客・仕入先の構成比整理
- 将来計画(3〜5年)の作成
企業価値の算定と注意点
代表的な評価式は以下の通りです。
- EV(企業価値)=株主価値+有利子負債-現預金
- 株主価値=EV-有利子負債+現預金
中小企業では、DCF法単体では計画数値のバラつきが大きいため、市場倍率法(EV/EBITDA)がよく併用されます。
EBITDAは営業利益に減価償却費を加算して求められ、キャッシュ創出力を測る主要指標です。
2. 買い手候補の探索と初期アプローチ
売り手は匿名化したノンネーム資料を用いて候補先にアプローチします。情報漏洩防止の観点から、社名・特定可能な要素は排除した形で作成されます。
買い手候補の種類
- 同業(水平型)
- 川上・川下(垂直型)
- 事業多角化を狙う大手企業
- ファンド(投資・再建型)
3. 基本合意(LOI)の締結と条件提示
買い手候補が興味を示した段階で、詳細資料を開示する前に「意向表明書(LOI)」が提出されます。
LOIに含まれる主な項目
- 想定株価(株主価値ベース)
- 譲渡スキーム(株式譲渡・事業譲渡)
- 役員の処遇・雇用方針
- 独占交渉権の付与
ここまでの段階では拘束力は限定的ですが、「独占交渉権」を設定するケースが多く、これ以降は他社との交渉を一時停止するのが一般的です。
4. デューデリジェンス(DD)の実施
DDは買い手が企業価値の妥当性とリスクを確認する工程です。財務・税務・法務・労務など複数領域に分かれ、専門家が調査を行います。
財務DDの主なチェック項目
- 正常収益力(EBITDA)の検証
- 運転資本の過不足
- 簿外債務(退職給付、未払費用)
- 固定資産の減損リスク
DDの結果による価格調整
DDでリスクが発見されると、以下の調整が行われます。
- 株価の減額(地雷項目の反映)
- 表明保証の追加
- クロージング条件の強化
特に中小企業では役員貸付金・在庫評価・未払残業代が減額要因になりやすいため、事前に是正しておくことが望ましいです。
5. 最終契約(SPA)の締結
DDが完了すると、最終契約(SPA:Share Purchase Agreement)を締結します。契約書は数十ページに及び、多くの条項が含まれます。
SPAの主要条項
- 譲渡株数・価格
- クロージング条件
- 表明保証
- 補償条項
- 競業避止義務
中小企業のM&Aでは競業避止義務の期間が問題になるケースが多く、一般的には2〜3年で設定されます。
6. クロージング(株式移転・対価支払)
契約締結後、クロージング条件が満たされた時点で株式移転と対価支払が行われます。
クロージング時の代表的な作業
- 株式譲渡証書の受け渡し
- 対価支払(現金・分割・アーンアウト等)
- 役員変更登記
- 銀行・取引先への通知
アーンアウトが採用される場合、業績連動の追加支払いが発生します。
7. PMI(統合作業)
PMIはM&A後の統合プロセスであり、買い手の戦略が成果に結びつく最重要工程です。中小企業では組織文化の違いによる摩擦が発生しやすく、統合計画の事前準備が必須です。
PMIの主な項目
- 経理・給与・会計処理の統一
- 人事制度・評価制度の統合
- 販売チャネルの共有
- 経営管理のモニタリング
M&Aの流れを理解するためのチェックリスト
| 項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 財務整理 | 正常収益力の算定、役員関連費用の調整 |
| 事業計画 | 将来CFの合理性、設備投資の必要性 |
| 法務 | 契約書の整備、瑕疵リスクの有無 |
| 人事・労務 | 未払残業代、就業規則の整合性 |
| 内部統制 | 会計処理の一貫性、管理体制 |
まとめ|M&Aの流れを体系的に理解することが成功の条件
M&Aの流れは、事前準備からPMIまで約7ステップで構成されます。中でも、企業価値評価・正常収益力の把握・DD対応は価格や条件に直結するため、専門家の関与が極めて重要です。
M&Aプロセスの全体像を把握することで、無用な価格交渉トラブルや情報漏洩リスクを避け、最適な条件での合意に近づくことができます。
